チューリッヒを終えて

チューリッヒ大学でのブロックチェーンの学びを終えたときの3つの質問に対しての解答をブログの方にも掲載します。

1、活動やメンバーはどんなものだったか?

ーー チューリッヒ大学に集ったメンバーは、各々が「ブロックチェーン」という1つの革命的な技術に対してそれぞれ工学、経済学、法学などの側面から研究に取り組んでいる学生や、IBMなどの企業の方々、教授、ノードなど様々です。解決すべき問題があまりにも壮大なテーマであるため、各々の強みを活かしてグループで議論し、課題解決に取り組みます。僕自身はsolidityやJavascriptを使って簡単なスマートコントラクトを書いた経験やPHIでプロダクトの設計に関わった経験はあっても、実績の少ない学生がそれだけを強みとして日本を代表してこのプロジェクトに参戦するわけにはいきませんでした。しかし幸いにも、僕は大学で日々医療を学んでいて、医療分野におけるブロックチェーン技術の導入に関しては課題そのものの発見という点では差別化できる環境にいたためそれが有利に働きました。他の参加者と比較して、様々な医療従事者の意思や行動を考慮したゲーム理論を展開することができたので、それを法、経済のエキスパートと議論して研ぎ澄まし、最終的に工学のエキスパートとともに設計して実装するといったことができました。それらを経たうえでの現在のプロジェクトとして、トークンを用いて患者の処方箋に紐づく個人情報の管理を行うための開発に取り組んでいるフェーズなので、これを実際に今後展開していくサービスの基盤にできればなと思います。

2、新しく吸収したことは?

ーー これに関しては無限にありますが、印象に残っているのは”NEO”と “Polkadot”についてです。NEOは実際に世界各国の取引所にICOしているEthereumとよく似た中国の暗号資産で、NEOとGASの2種類のトークンを使い分けています。それらを使い分けることで実際にどのようにしてdBFTの仕組みに寄与されるのかについては謎だったんですが、Neoの講義を受けてそれを正しく理解することができました。NEOトークン保有者と、その保有者の投票によって選出された、ブロックチェーンに記帳する権利を有するノード(Bookkeeper)によってそれが為されていて、仕組みをざっくり説明すれば、「Bookkeeperの中からランダムに決定された一人の代表者と、それ以外の投票者に分かれ、代表者がそれまでの取引を記録したブロックを生成する。代表者以外の投票者となったBookkeeperはそのブロックの妥当性について投票をし、66%以上の賛成を得ることができれば、ブロックの妥当性が認められ、それまでのブロックチェーンにつなげられる。もし66%以上の賛成票を得ることができなかった場合は、別のBookkeeperが代表者に選出され、再びブロックの生成と投票が行われる。このフローを66%以上の賛成を得ることができるまで続ける。」といった感じです。PoWやPoSのような消費電力や保有量に応じてゲーム理論的に不正させないようにするような類のインセンティブ設計とはまた切り口が異なっていて興味深いです。 

一方PolkadotはWeb3 Foundationのプロダクトで、GAFAMなどの巨大なIT企業によって中央集権化されたウェブ構造を完全に分散化することをビジョンとして掲げています。中央集権支配からの脱却という点がブロックチェーンの目指す世界と一致していて、Polkadotは実際に異なるブロックチェーンプラットフォームをつなげるといったこともしています。どのような仕組みでそれが実現できるかというと、簡単に言えば、「ParachainとRelaychainとBridgeの3つの要素がキーとなっていて、Parachainとして相互接続をしたいチェーンは、専用に作られた独自のブロックチェーンだけでなく、BitocoinやEthereumなど既存のブロックチェーンも対象になる。しかし、これらのParachainには互換性をもたせたくてもそれぞれ合意形成方法が違ったり、ブロックの生成速度が違ったりと仕様がばらばらの状態で、これではそれぞれのチェーンを繋ぐことはできないため、Bridgeがこの合意形成などの違いを吸収する。このBridgeはParachainどうしを直接つなぐのではなく、それぞれのParachainはBridgeを介して大きなチェーンであるRelay chainにつながる。このRelay chainにそれぞれのチェーンから書き出されたデータを記録し、他のチェーンからの参照を可能にする。」といった感じです。これら異なるチェーンを繋ぐインターオペラビリティーだけでも革新的だなと思ったんですけど、それぞれの仕組みをもっと深く技術的に理解することでこれがスケーラビリティーの問題解決にも寄与していることがわかります。

 チューリッヒ大学を経て新しく吸収できたことは多すぎて、上の2つの例は本当に氷山の一角にもすぎないレベルなんですが、話し出すとキリがないので今回はやめておきます。(笑)

3、塗り替えられた知識や考えは?

ーー これも無限にあるんですが、もし1つだけ挙げるとすれば、DAGに関する理解が綺麗に刷新されたことです。DAGとは有向非巡回グラフのことで、順序づけする必要があるタスクの集合を、あるタスクが他のタスクよりも前に行う必要があるという制約により、頂点をタスク、辺を制約条件で表現すると有向非巡回グラフで表現できるといった特徴があります。これはブロックチェーンと仕組み自体は似ています。しかし、DAGに関する理解を深めたことで、例えば1つのブロックよりも小さな単位でデータ扱えるというDAGのみが持つ特徴を応用すれば、今後世界にこれらの技術が浸透して、世界中で行われる膨大な数の取引を1つの台帳で管理することによって生じてしまうスケーラビリティの問題を解決できる可能性を秘めているのではないか、という仮説を立てることができました。

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